セザンヌの生まれ故郷エクス=アン=プロヴァンス市街地から数km離れ、サント・ヴィクトワール山に連なるなだらかな丘陵地帯にビベミュスの石切り場があります。採石の歴史は約2000年前まで遡り、ローマ人たちがすでに石を切り出しています。そして、エクスに多くの貴族の館が建造された16~17世紀には大量の石が使われました。1501年に設置された高等法院の高職に就く貴族たちが競うように大きな館を建てたからです。ビベミュスの石はモラス(molasse)と呼ばれる砂石で、明るい黄土色。光沢がなく、ざらざらした感触で、暖かみが感じられます。
ビベミュスの石切り場は、長い役目を終え1885年に閉鎖されてしまいます。地表面の露出している石を切り出し、掘り下げながら採石を進めるという方法で数世紀にわたり石が切り出されました。その結果、空洞と垂直の壁が作り出す人工的な空間が、カシや松の木が繁る森の中に遺されることとなります。
職人たちのノミとツチの音が消え、静まり返った石切り場はセザンヌを魅了し、キュビズムの到来を告げる絵画が生まれることとなります。エクスの市街地から遠く、急な山道を登らなければならないことから、セザンヌは画材を置いておくために小屋を1885年~1904年まで借りています(右の写真)。誰にも干渉されず、じっくり自然と向き合って、熱心にキャンバスに向かう初老画家の姿が目に浮かびます。こうして、ビベミュスの石切り場は屋外のアトリエとなるのです。
セザンヌの絵画は当初海外での評価が高かったため、彼の作品はフランス国内には30%しか残されていません。セザンヌのアトリエは裕福なアメリカ人たちの寄付によって不動産開発から救われています。また、ビベミュスの石切り場は画家のジョージ・ブンカーによって購入され、セザンヌの絵のモチーフとなった場所に人の手が入らないように保護されました。1998年、『ポール・セザンヌの記念の場として保存する』という条件でエクス市が遺贈を受け、2006年から一般公開されています。
*石切り場の見学は予約制です。自然保護地区内にあるので、6月1日~9月30日の見学は山火事の危険性が高い日は中止されます。
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